斬月愛のギャラリー

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「おーみんな元気そうだなー」

朝一の挨拶でこれってどうよ?な先生の一言。
もう慣れっ子な生徒達は、各自適当に聞き流す。
 
「悪いけど、今日午後から私居なくなるから。
 ちょっと研修が入っちゃってさー。
 ったく、こんな半端な時期になんだってんだかねー。
 という事で、私の代理が来てるんで、お前ら親切にしてやれよ」
 
報告なんだか、ぼやきなんだか分からない説明を受けながらも、新しい先生という言葉に、生徒達は盛り上がる。
男子は色気ムンムンの先生を期待し、女子はカッコ良い先生を期待した。
 
普通、そんな先生は絶対居ない……
 
現れたるは、長い髪を後ろでまとめ、髭で覆われた顔、黒いプーマのジャージ上下に白のTシャツを着た、目つきの悪いおっさん。
ある一部の層には、非常にうけたが、ほぼ全員ががっくり項垂れた。
 
そして、項垂れなかったが、口をパクパクしながら激しく動揺している者一名。
 
「斬月一太郎先生だ」
「お、おっさんっ!!」
「なんだ、黒崎知り合いか?」
 
音をたてて立ち上がり、新任の先生を指差したまま硬直する一護。
その姿に、雨竜、チャド、織姫がもしやと、まじまじと斬月先生を見つめる。
 
「ぁ……あ……や、なななんでもねぇっ!」
 
叫ぶと同時に座り、奇怪な絵柄の板を自分に当てる。
机に倒れこむ一護を見た三人は、やはりあれは斬月なんだと、行き先は浦原商店かと、ため息をついた。
 

<b>臨時講師</b>

 
「このっくそっ浦原っ!てめぇ何しやがったっ!!」
「おや〜黒崎くん、来た早々何ッスか〜?」
 
一護の勢いもどこ吹く風とばかりに、優雅に扇子をはためかしていた喜助が、速攻拳骨を食らう。
 
「拳固がきましたか……」
 
十二番隊隊長という職歴を持っているにも関わらず、にわか死神代行に拳固を食らわされ涙目状態の喜助。
へたれな、現小売業者であった。
 
「きましたかじゃねぇっ!斬月に何しやがったっ!」
「もうお会いしましたか〜」
 
さっきまでのへたれを隠すかのように、既に体勢を立て直し再び扇子をはためかせているあたりが、一応前隊長臭を漂わせる。
 
「ってか、担任の代わりに教師として立っていたってのっ!
 でだ、体の提供と記憶操作しやがったのは誰だ!!」
「そりゃぁ〜、斬月さんには出来ませんからねぇ」
 
扇子の柄で自分を指した瞬間、胸倉をがっしりつかまれた。
 
「冷静になって下さいよ〜黒崎さ〜ん」
「あ"〜?」
「僕一人で、あんな事が出来る訳ないでしょう?」
「他にも、共犯がいやがるのかっ!」
「いやいや〜、ご本人様のご希望が無いと、無理だと言ってるんですよ」
 
胸倉をつかんだ拳を未だ緩めず、しかし一護は考える。
 
「……その本人の意思ってやつを…いつ聞いた?」
「そりゃぁ〜帰ってきてからに、決まってるじゃないですか〜」
「ここでか?」
「そうそう」
 
胸倉をつかまれていても、相変わらずにこやかに飄々と答える喜助。
そんな様子を一切無視して、ここには世話になるまいと決意する。
約二週間前、たまたま虚との戦闘で怪我を負い、ここで怪我の治療を受けるはめになった。
いやに、積極的に、拉致されるかのように連れ込まれたと思ったら、この結果かと額に青筋が浮かぶ。
 
「ほら〜一応お客様への万全のフォローするのが、うちの経営方針ですから〜」
 
胡散臭さ100%の台詞。絶対何か裏があるに違い無いと確信した。
 
「おっさんは、何て言ってたんだ?」
「や〜斬月さんは、お優しいというか、心配性?
 普段の黒崎さんを見たいと言われたものですからぁ〜ほら授業参観みたいなものッス」
「……てめぇはそれで何の得がありやがる?」
 
ちょっと綺麗な言葉でまとめられても、騙されないとばかりに、疑惑の視線を投げつける。
 
「お得意様の為と言いましたよ〜」
 
言う気はさらさら無い態度。
眉間に皺を寄せながらも、ため息をつく。
目の前の男が、こんな態度の時には、何を言っても無駄とばかりに、話題を変えた。
 
「俺の斬魄刀がねぇんだけど?虚が出たらどうするんだ?」
 
背中をぱしぱし叩く一護。そこに刀は無い。
 
「そりゃぁ〜斬月さん、出かけてますからねぇ」
「前の時は違ったじゃねぇか」
「方法が違いますよ」
 
詳しく話しましょうか?という技術屋の台詞を、うんざりとしながらばっさり切る。
 
「虚出たらどうすんだよ?」
「どうしても、どうしようもなくなりましたら、斬月さんの腕についている紐を切って下さい。
 それで、実体化が解除されるッス。
 でも、なるべく日数稼いで下さいね〜」
 
人体…刀体実験かよと、漸く相手の真意を悟る。
 
「ったく……で、おっさんは何の先生をやるってんだ?」
「おや、聞いたんじゃないんですか?」
「そんな余裕あるかよ」
 
普段でさえ悪い目つきをことさら悪くして、誰のせいだとばかりに喜助を見る。
 
「色々聞いたんですが、なんとかなりそうなのが、体育だけでした」
「はぁ〜?おっさんは、おっさん年齢だろ?」
「刀としての存在は古いかもしれませんがねぇ。この現代での知識は黒崎さんの持っているものしかないッス」
「あ、俺ん中に居るからか?」
「そうそう」
 
実際喜助自身も良く分かっていない事だったが、適当に微笑みながら返答する。
 
「あのさ〜だとしたら知識だけだよな?実際やった事ねぇんだろ?
 大丈夫かぁ?」
「そこはそれ、運動神経は、一緒に訓練した黒崎さんが、十分ご存知でしょう?」
「まぁなぁ…でもよぉ、明日からスキー合宿だぜ?」
「あ"…?!」
 
笑顔のまま固まった喜助と、後先考えねぇでやるんじゃねぇよと、拳を畳にめり込ませる一護が居た。
 
           ◆◇◆
 
「おっさん、どうだった?」
「いや……」
「まさか…」
「体育教師なのだからと……」
「だぁぁぁぁぁぁぁ〜〜」
 
言葉は困っているように聞こえるが、まったく態度には表れていない、いつもと変わらない落ち着いた物腰と、鋭い目つきの斬月先生。
 
「まじで大丈夫かよぉ〜」
「あぁ」
 
どっから、その自信は出てきやがるんだと、一護ががっくり肩を落とす。
浦原商店から帰った後、斬月とマンツーマンのイメージトレーニング及び、対策を練った。
引率教師は、全員レベル分けされた生徒の指導、もしくは監督をしなければならない。
さすがにイメトレだけでは上級者は無理だろうと、初心者の担当をしろと結論を出した。
徹夜の会議は無駄に終わったようだ。
確かに体育教師なら、無条件でスキーが出来ると思われるのもわかる。ついでに上手いだろうと、勝手に思われたりもするのだろう。
かけらも経験が無いどころか、スキー板をはいた事ないんですとは、誰も思わなかったに違いない。
妙に押しの強い教師陣の高校、戦い以外無口なおっさんには無理だったかと、頭をフル回転させて、次策を練り始める。
 
「おっ……さん?」
 
思いついた案をどうしようかと、斬月に視線を向けたら、彼は遠く空を見ていた。
掌を掲げ、空から止むこと無く降り続けている雪を受け止めている。
 
「俺ん中って、雪は降らねぇのか」
「あぁ、初めて見た」
 
斬月の視線は、絶え間なく降り続ける雪から離れない。
 
「雨は…世界を全て灰色に変えてしまう。
 雪は、全て白一色に覆ってしまうものなのだな………」
 
やっと一護を見た視線は、微かに笑みを含んでいた。
 
「私は、お前の創る青空が好きだ…一護、私を信じろ。
 さぁ行くぞ」
 
一護の肩を叩いて前に促す。
信じてるって言っただろと、少しむっとした声が斬月の耳を掠めた。
 
           ◆◇◆
 
周りを見回す。
あまりに慣れ親しんだメンバー。
これなら、なんとかなるかもしれないと、一護はほっと息を吐いた。
 
「井上さん?」
「なぁに?石田くん」
「ここ…ハイレベルグループ……」
 
不思議そうに、まじまじと井上を見る。
 
「石田、織姫は運動神経いいよ」
「え?そうなのか?」
「おう!ただ、ちょ〜っとばかしドジだけどな〜」
 
ドジは誉め言葉だったのかというぐらい、胸をはって言うたつき。
一護とチャドは、ちょっとだけですむのか?と、同じ事を考えていた。
 
「始める」
 
そこに、斬月の静かな声が割り込む。
事情を朧げながら察している雨竜、チャド、織姫は、それぞれ状況を楽しみ、単なる新任のおっさんだと思っているたつきは、どの程度の腕前か見せてもらおうとばかりに仁王立ちしていた。
 
「お前達のスキーレベルは、高いと聞いてる。
 私は、ここに居るから、存分に楽しんでこい」
 
これならボロは出ないだろうと、一護が短時間で考えた次策。
 
「先生、お手本ぐらいは見せてくれませんか?」
 
しかし、事情の知らないたつきは、容赦がなかった。
スポーツは全て勝負ごと。勝ち負けが全ての世界さと、豪語する運動部に所属するたつきとしては、しごく当たり前の挑戦。ほら、見せやがれとばかりに、不敵な笑みを浮かべていた。
 
「そうか…、それなら私がここに戻るまで、静かに待ってろ」
 
切った貼ったの世界自身の斬月は、相手の空気を敏感に察して、同じように不敵に笑う。
スキー経験0がナンボのもんやとばかりに、グラサンを装着。
たつきの背後で、動揺している一護に笑いかけ、雪を蹴った。
 
「黒崎くん!」
 
急斜面を楽々と滑降していく姿に、織姫はやったとばかりに笑いかける。
 
「さすがだな」
 
チャドがため息とともに言う。
 
「黒崎」
 
雨竜がこっちへ来いと手招きをする。
 
「何だ?」
「あの妖精は、スキーをやった事があるのか?」
「妖精?何だそりゃぁ?」
「あれ、お前の刀だろう?物に宿ってるってことは、妖精なんじゃないのか?」
 
たつきを意識しての小声のやり取り。
一護がまじまじと斬月の後姿を見た。
 
「羽がねぇぞ」
「出さないだけじゃないのか?
 僕はトンボのような羽が希望だな」
 
なにげに、頬を染め、握りこぶしまで作っている雨竜。手芸部のラブリー大好き精神オーラが背後を飾っていた。
そんな姿にうんざりしながらも、どこを見て言うんだと雨竜に胡乱げな視線を投げ返す。
おっさんに羽はやかしても似合わねぇだろと、視線が言っていた。
 
「あのさ〜、蝙蝠の羽ってカッコ良いと思うんだよね〜」
「まんま、悪魔になっちまうじゃねぇか」
 
会話に乱入してきた織姫の言葉に対し、少し噴出しながら一護が答える。
普段の黒尽くめの衣装に蝙蝠羽ときたら、サタンか吸血鬼以外ありえねぇと肩を震わす。
 
「これでいいか?」
 
ぐだぐだな会話をぶち切る低い声。何時の間に戻ってきたか、斬月が一護の背後に立っていた。
 
「先生っ!」
 
満面の笑みのたつきが、満足とばかりに斬月の背中を叩く。しかし、その掌は、インハイ二位の力。普通に叩いても、瓦の10枚は割れる勢い。
さすがの斬月も、こんな攻撃が来るとは思ってもみず、そのまんま雪に埋もれた。
 
それでも直ぐに頭を振り、満足したならいいと言いながら、片手をつき雪まみれの上半身をあげる。
目の前に、満面の笑みから、怒りの表情に変えたたつきが立っていた。
 
「先生セクハラっ!」
「何だ?」
 
怒りのオーラを背負ったまま、ビシッと斬月に指差すたつきと、頭をかかえた一護、そして興味深そうにこれからの展開を待ちわびるチャドと雨竜が斬月の目の前に居る。
 
「いい加減に、手をどかせって!」
「?」
 
自分の手元を見る。
織姫があいまいな笑みを浮かべて、雪にずっぽり埋もれていた。
その胸の上には、しっかり体重をかけている斬月の掌。
 
「あ、重かったな」
「あははは………」
 
織姫が、温い笑みと乾いた声で笑い頷く。
 
「雪だと思っていた」
 
そう言いながら、雪を触り、再び織姫の胸を触り、違うのだなと呟く。
 
「くぉのぉっ!そこのセクハラ教師っ!」
 
たつきの怒声が耳に入っているとは思えない様子で、織姫を立たせ、パタパタと雪を払っている斬月。
 
「たたたつきちゃん、大丈夫だから」
「大丈夫じゃないでしょ!風采のあがらないおやじに触られたのよっ!」
「私は、風采があがらないか?」
 
織姫の胸の上にあった、掌を見つめながら斬月が呟く。
 
「眉間に皺を寄せて、掌を見つめるなーーーっ!」
 
対織姫のみ発動するナイト魂が、叫ぶ。
 
「たつき〜、このおっさん全然悪気ねぇみてぇだし、とりあえず滑らねぇと時間無くなるぞ」
「気をつけるんだぞ」
 
たつきは無視。斬月は斜面に向かう一護に向かって手を振った。
 
「たつきちゃ〜ん、行くよ〜」
「ちょちょ織姫っ!っ先生っ!そこで反省してなさいっ!」
 
一応言う事は言って、織姫を追いかけた。
 
 
 
 
「先生」
 
未だ生徒が残っているとは思っていなかった斬月が、前方を見る視線は変えずに、何だと聞く。
 
「一応先生という肩書きなんですから、一護ばかり見ているのはどうかと思いますが」
「だめか?」
「だめですね」
「授業参観のつもりなんだがな…」
「それなら、肩書きを間違えてますよ」
 
雨竜は、眼鏡を治しながら、苦笑を浮かべる。
まるで、可愛い女の子を持ってしまった父親のようだと、斬月を見上げる。
その時、突然空気が変わった。
雨竜の眼が細められ、視線が一護の先を見据える。
 
「短かかったな」
 
斬月がため息をつく。
 
「後は頼む」
 
右手首についている縄を引きちぎる。
雨竜の目の前には、もう誰も居なかった。
 
「一人で戦わすわけにはいかないという事か……羨ましいな……僕の武器にも妖精が付いていたら、もう少し戦えたか…な…」
 
雨竜は、前方に慣れ親しんだ一護の強い霊気を感じながら、クインシーのブレスレットがなくなった腕を眺めた。
 
           ◆◇◆
 
「俺達のグループに担当が居ないって、先生らの間でもめたらしいんだけど?」
「いやぁ〜斬月さんの事だから、もっと早くなるかと思いましたけど、随分持ちましたね〜」
「刀が無いせいで、いらねぇ怪我まで受けたしよぉ」
「脱着可能にするには、もう少し小型化が必要ッスかねぇ?」
 
会話かみ合わず。
 
「ったく、とにかく二度とすんなっ!」
「まぁまぁ、技術の進歩はすぐにはありえませんから」
 
最後まで微妙に会話かみ合わず終了。
 
 
 
 
 
 
 
 
「今日から剣道をやる」
 
技術の進歩はすぐできねぇんじゃなかったのかと、がっくり項垂れる一護。
だから授業参観なら、先生という肩書きは違うと言っただろうにと、眼鏡を直しながらため息をつく雨竜。
織姫とチャドは、刀本体が教えてくれるってのは、凄い事だと、やる気満々。
 
 
 
 
「一護…、また刃を交える時間が取れて、嬉しいぞ」
 
斬月は、楽しそうに笑った。
 
 
 
 
−End−
 
 


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