斬月愛のギャラリー

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「先生、おさらいは終わりましたか?」
「あ…あぁ……」
 
鏡の前で、百面相しているとしか思えない状態のおっさんが一人。
呆れた顔の巨乳ナースが、ため息をつく。
 
「患者さんが来ていますから、諦めて頑張って下さいね」
「ぅ………」
「ほらほら、患者さんは待ってはくれませんよ〜」
 
無理やり引きづりこまれた、診察室一番。
冬の寒い時期、待合室は溢れていた。
 
◆小児科外来◆
 
「はぁい、黒崎さぁん、一番診察室に来て下さい〜」
 
病院とは思えない陽気なアナウンス。
その声と共に緊張は募る。
自然と眉間に皺が増える。
口元が気難しげに下がる。
束ねられた髪の毛は、医者にしては長すぎ。
不精髭よりは整えられた程度の髭は、医者としてはどうだろう?
唯一眼鏡が生真面目そうな黒ブチ。
 
目の前に小さな子供と母親が入ってきた。
子供と目線が合うよう、低く設定された椅子に座っているおっさん。
そして、子供は泣き出した。
 
「…ぅ……ぁ……こここ怖くないから」
 
元凶に言われても、説得力零。
母親がすみませんと言いながらも、口元が笑っている。
 
「どどうしましたか?」
 
子供の前に、キティちゃん、アンパンマン、ピカチュの飾り付きボールペン、シャープペンをひらひら翳して、問診をする。
 
「白いうんちが出まして…」
「もってこられましたか?」
「はい…」
 
オムツに広がる真っ白いうんち。
小さな子供に流行る、一般的なウィルスが原因。
 
「ロタウィルスですね。
 ぼ……ぼく……お腹見せてくれる……かな?」
 
精一杯の笑顔を向ける。
ビクンと子供の体が跳ね、落ち着いてきた涙が再び溢れはじめる。
 
「ぁ……あんぱんマンが、お腹みたいって言っているんだ」
「ぅ……本当?」
「ぅ……本当」
 
盛り上がる涙はあったが、一生懸命生真面目な顔をして子供がお腹を出す。
 
「ここは痛いか?」
 
声はまだ出せない。
ふるふると首が振られる。
 
「ここは?」
「だ…大丈夫」
「そうか、もうお腹を隠して大丈夫だ」
 
逃げるように母親の元に戻る子供。
未だ信用零。
 
「乳製品は取らないように。
 薬を処方しておきますので、吐いている時には、スポーツドリンクを少しづつ摂取させて下さい」
「はい、ありがとうございました。
 ほら一護、先生にお礼を言って」
「……アンパーンチっ!」
 
子供はパンチを繰り出し、走って逃げ出した。
 
    ◇◆◇
 
 
「先生……落ち込むんなら、髭だけでも剃ったらどうですか?
 それとも、髪の毛を綺麗さっぱりするとか」
「……嫌だ」
「だったら、諦めて笑顔全開の表情を作るようにして下さい」
「……れ…練習中」
「練習が足りません。
 少しは、藍染先生を見習ったらどうですか?
 あの先生は院内でも腹黒くて有名な外科担当ですが、笑顔はとっても立派です」
「ぅ……あれは……朽木くんだって笑わないだろ?」
「朽木先生は、こざっぱりしていてお綺麗に見えるからいいんです。
 ついでに小児科じゃありません」
 
がんがん返してくる松本婦長におされ気味。
元々口も達者ではない。
 
「とにかく次の患者さんは泣かさないで下さいね〜。
 じゃないと真面目に髭そり買ってきますよ!」
「婦長〜……」
「頑張れ先生!」
 
 


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